【20】闇の96(前編)

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「……まいったな。気付かれちまったらしい」  その時、客室用の電話が鳴った。  受話器を取り上げてフロントから黒沼の伝言を聞き終えると、アザミは手早く引き揚げ準備を済ませる。  黒沼がこの部屋に押し掛けては来なかったことと「後日また連絡をくれ」との伝言から考えて、正体が気付かれたわけではなさそうだとアザミは思った。  氷動とカギヤは、最悪の一番短い時間を想定して行動しているはずだ。 「極秘データ」を発見して、早くノワールから離れてくれ。  アザミは黒沼を逃がした悔しさの中に、ほっとしたような気持ちを少し感じている自分に気付き、 「まだまだ若いね。俺も」  と、苦笑いしながら508号室を後にした。  そしてアザミの運転する車は闇の中へと消えて行った。  黒沼が茶色いレンガのショッピングモールで出会った艶やかな男に会える日は、もう二度と来ないだろう。  広めの物置の前にたどり着くと、早速カギヤは氷動から受け取った専用キーを使って解錠を始めた。
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