【21】闇の96(後編)

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【21】闇の96(後編)

 最初の計画では、マリネがバンを運転してバイクを隠すまで全部一人で行う予定だったのだが、それを知ったモグリ医師が(みずか)ら協力を申し出た。  自分が作戦に参加すれば、マリネが運転席から乗降しなくてよくなるため、時間もかなり短縮できるだろうという班の効率を考えての発言であった。  アザミは「優秀な外科医に万が一のことがあったら『96』の損失になりますから」と言って、初めのうちは彼の申し出を丁寧に断っていた。  しかしモグリの言うことには根拠と説得力があり、その心意気も嬉しかったので、結局アザミ班の一員として作戦決行日に参加してもらうことになったのだ。  モグリは有言実行の男だった。  積極的に事前に何度も現場周辺の写真を見たり、実際に車を運転して建物と駐輪スペースも下見に行った。  当日まで難易度の高い手術をする時のように、頭の中でイメージトレーニングを繰り返した。  そしてなにより、優れた医者であるモグリは本番に強かった。  彼は緊張感に飲み込まれることもなく、何度も繰り返したイメージに従って冷静に行動し、予定通り自分の任務を無事に完了させたのである。  ハンドルを握っているマリネが、助手席のモグリに言った。
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