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地面に落ちている大きなゴミの位置もすべて覚えているのでスピードを落とすことなく、まるでスキップするかのように小さくジャンプしながら避けて無事に路地を抜ける。
今日まで何度もノワールの周辺を歩いた氷動は、道路だけではなく、この辺り一帯にあるものは完璧に記憶していた。
氷動の視界は実際の目だけで闇を見ているわけではなく、記憶している情報で補うことで周囲が昼間の景色ように見えている状態なのだ。
長年を通じて体の一部になったと言っても過言ではない驚異的な記憶力と、アクロバティックなバイクの運転技術が「96」の任務を遂行する中で合わさり一つになった。
アザミのフェロモンに過剰反応したのは、ずば抜けた記憶力だけではなく「二つの能力の合わせ技」が、氷動の中に秘められていたからである。
なんて楽しいんだろう。
氷動は数年ぶりに、何かを純粋に楽しむ気持ちを取り戻している自分に気付いた。
毎日、暗くなるまで夢中になって、険しいコースをバイクに乗って跳ね回っていた少年時代。
バイクと勉強の両立は大変だったが、弁護士になって祖母の助けをしたいという目標があったので苦には思わなかった。
21年間、毎日が充実していた。
祖母に「次第に憎い相手に似てくるお前を毎日見続けて、恨んで生きてきた。殺すつもりだった」と言われるまでは。
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