【21】闇の96(後編)

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 憎しみは連鎖する。  そんな祖母の本心を知った彼は、当然のように誰も信じられなくなった。  自分勝手な不幸に子供を巻き込んだ家族たちを憎んだ。  祖母の葬式の時、ちっとも悲しくはなかったし涙も出なかった。  やがて自分の命に価値を見いだすこともできなくなり、表情も消えた。  しかし今「96」やアザミと出会った氷動は、祖母が亡くなってから初めて彼女に憎しみ以外の感情を抱いていた。  ようやく「居場所」も「自分」も手に入れることができて、過去に(とら)われている時間が惜しい。  だからこそ今の自分は、死ぬまで過去に囚われ続けたあんたを哀れに思える。  これからは全力で自分を生きて、あんたが恨み抜いた「ミハル」とは違う男なのだと、愛する娘の子供だったんだと存分に見せつけてやるよ。  それが、偽りの愛であっても21年間育ててくれた祖母への(はなむけ)だ……!  その後も周囲の動きに神経を張り巡らせながら走り続けていると、下方に大きな川が流れ、その脇の土手に沿って作られている一方通行の車道に出た。
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