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カーブを派手に曲がり、一方通行の車道を逆走しながらただならぬスピードで接近してくる一台の車が視界に入った。
そのあり得ない走行を見て、氷動には分かった。
「黒沼か……!」
逆走のため上り勾配となる道路を、追手から逃れるために氷動もバイクを走らせる。
ノートパソコンを奪われたと西沢から連絡を受けた黒沼は、瀬田を途中で強引に下ろして置き去りにすると、猛スピードで車を走らせてノワールを目指した。
その途中で西沢に聞いた特徴をしたバイクが走行しているのが目に入り、追いつくための最短ルートとして、この道路を逆走してきたのである。
「どこの組織か知らねぇが、なめたマネしやがって!ぶっ殺してやる!」
黒沼の車が狂気を感じさせるスピードで氷動に迫る。
本当は忌々しい目の前の賊に車を追突させて、今すぐ跳ね飛ばしてやりたいと黒沼は思っていた。
しかし背中に見える厚みを感じさせるリュックサックに、奪われたノートパソコンが入っているのだとしたら。
そのためらいが、疾走する氷動のバイクとの車間距離をあとわずかという所まで詰めておきながら、黒沼に最後の一手を出させなかった。
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