【000】エピローグ

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「まぁ、目の前にこんないい男がいれば無理ねぇか」  と、アザミが軽口をたたいて笑う。  確かにいつも以上に洒落たスーツを着こなしたアザミが醸し出す大人の色気に、氷動が目を奪われていたのは事実であった。  しかし以前のようなフェロモンによる体調の変化は、もう感じられなかった。  すでに実力を知っている部下に対して、アザミもフェロモンを全開にすることはないだろうし、氷動自身も自覚をしていれば問題なさそうだ。  アザミのほうも今夜は班長として氷動が初参加した作戦の完遂を祝いたいので、月を眺めながら二人で美味(うま)い酒でも飲もうと、連絡時に言っていた。  班長と初めて出会った時と、すべてがこんなにも変わるものなのか……。  氷動は、招待された豪華な空間を改めて感慨深げに見回した。  ここは二人だけで使用するには、贅沢すぎる広さであった。  品の良い装飾を施された高級家具たちが明るさを落としたシャンデリアの光に照らされながら、ゆったりとした心地の良い時間を演出している。  大きな窓からは、綺麗な満月と月明かりを水面に散りばめた湖が広がって見える。  そして真っ白なテーブルクロスの上には(いろどり)も鮮やかに花が飾られ、冷やされたシャンパンと輝く二つのグラスが用意されていた。
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