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洗面台で口をすすいで顔を洗い、タオルでふき取った氷動の顔は、いつもと変わらぬ無表情に戻っていた。
それと同時にこれほど最悪のスタートを経験したことで、今まで以上に度胸がすわった気もしていた。
「悪趣味だな……」
「はぁ?俺は、なにも悪くないぜ?」
「それは悪党の常套句だ」
「なんだよ。その証拠に、オヤジは平然としてるじゃねぇの」
そうおどけたように言うと、男は自分をにらんでいる片岡の向かい側のソファにどっかり座った。
「てっきり俺はオヤジがあの兄ちゃんのズバ抜けて綺麗な顔だけを理由に、スカウトしたのかと思ったんだが……アイツが見た目だけじゃねぇってのが、よぉく分かったぜ」
「当然だ。人を見抜く目と選ぶ目には自信がある」
と、片岡が苦々し気な視線を向ける。
「私が人選で失敗したのは、一度きりだ」
そう続けられた嫌味をスルーするかのように、男はソファの背に深くもたれかかると足を組んだ。
「しっかし、まさかあそこまで激しく反応するとはねぇ。さすがに俺も驚いたぜ」
と、男が意味ありげな笑みを浮かべる。
「面白くなりそうじゃねぇか」
不本意ながらその笑みの理由を理解出来てしまう片岡が、地味なため息を吐いた。
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