【000】エピローグ

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 しかしその男性の外見についてはあまりにも地味だったので、まったく思い出せないとのことだった。  こうして鳳仙花(ほうせんか)屋多野組(やたのぐみ)が結託し、日本における武器売買市場に新たに食い込もうとしていた計画の全容がついに白日の(もと)にさらされることとなった。  彼らの名前が世間を賑わす日も近いだろう。  アザミたち「96・アザミ班」の仕事はここまでであり、この先は表の世界、警察の仕事となる。  上質な味わいのシャンパンと会話を楽しんでいた二人が、ほぼ同時にグラスを置いた時、 「あの……一つだけ質問してよろしいでしょうか」  と、ためらうように氷動が言った。 「なんだよ?改まって」 「黒沼は……班長の待っていたホテルAの508号室に……行ったと思うのですが、その……」  氷動の予想外の言葉にアザミは一瞬だけ驚いた顔をした後、にんまり笑うといつもの調子で、 「あぁ、あの野郎!相当溜まってたみたいだぜ!全然萎えねぇもんだから、もう途中から何発目なのか俺も分からなく……」  と、そこまで言いかけて、氷動の表情がかつての冷たい仮面……というより能面のように固まっていることに気が付いた。
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