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【04】班長の秘密
片岡警視長に呼び出された氷動は、コンクリートの壁と床に囲まれた無機質な部屋を再び訪れていた。
片岡自身は少々遅れるため「先に来ている班員に簡単に自己紹介しておくように」との指示を受けている。
自己紹介するということは、どうやらアザミ班長ではなさそうだ。
氷動は今から顔を合わせる相手が、アザミと同系統の人間ではないことだけを全力で祈った。
ドアを開けて部屋の中にアザミがいないのを現認すると、ようやく氷動はホッとした。
そして祈りが通じたのか、室内には人の良さそうな顔をした男性がパイプ椅子に座っていたのだ。
30代前半だろうか。
彼の左手薬指には、シンプルな銀の指輪がはめられている。
パイプ椅子から立ちあがって会釈した男に対して、氷動も姿勢を正して礼を返した。
その男は片岡ほどの地味さではないが、派手さも特に感じられない。
清潔感のあるスーツ姿は、中小企業の営業職だと言われたところで違和感がないだろう。
もしかするとアンダーグラウンドに身を沈めている類いの人間には少しも見えないという外見が、彼の武器なのかも知れない。
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