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今朝、黒沼は屋多野組の縄張から車で2時間ほどかけて、港の見える街に移動した。
舎弟は連れずに一人だった。
この街は屋多野組のシマではない。
強面の若い衆を連れて歩いていれば、当然目立つ。
下手をすれば地元の同業者とトラブルになりかねない。
現在の黒沼にとって「余計な関わりを一つでも増やしたくはない」というのが本心であった。
午前10時に、この辺りでは高級なランクに入るRホテルにチェックインを済ませた。
そしてなんとか今回は「極秘データ」を警察から守ることが出来たという極度の緊張感からの解放により、泥のように眠った。
周囲が暗くなりようやく客室のドアを開けた黒沼は、そのままホテルの外に出た。
ショッピングモールとの距離は歩いて5分もかからない。
服装はノーネクタイ、黒のスーツという姿だった。
薄いグレーの色の入ったフレームレスの眼鏡は、切れ長の双眸から放たれる鋭い眼光を隠し、袖口からは高額そうな腕時計がちらりとのぞく。
黒髪をオールバックにまとめた30代の黒沼は、やり手の若き会社経営者にも見えた。
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