【06】ハニートラップ

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 組織の中でも一目置かれている立場の黒沼はかなり慎重な男であり、頭が切れるという情報を「96」は得ている。  Rホテルには屋多野組(やたのぐみ)または黒沼個人の息のかかった手下を前もって従業員として、密かに潜り込ませているかも知れない。  その場合、黒沼がホテルから外出したタイミングを狙って捜査員が何か仕掛けたとしたら、手下から連絡されて気付かれてしまう可能性が高い。  また()えてホテルの外を出歩くことで自分をオトリにして、周囲に動きがないか別の場所から手下に見張らせている可能性もある。  そして連絡を受けた黒沼は、ホテルに戻らず姿を消してしまうかも知れないのだ。  警察の追跡班はこの街まで黒沼を追ってきたが、彼が現在いる閑散として見通しの良いショッピングモールとRホテルの二ヶ所を遠巻きに見張る以上のことは、残念ながらできなかった。  追跡班が行動できるとすれば、黒沼がこの街から屋多野組(やたのぐみ)のシマに戻る時だろう。  黒沼に何かしらの動きが見られるのが明日なのか、一週間後になるのかは分からないが、それまで追跡班は気が抜けない日々を過ごさなければならない。  いくら追跡班がプロだとはいえ、終わりの分からない時間を車中で待機し続けなければならないというのは、かなり厳しいものがある。  しかし一瞬でも油断して黒沼の車を見失ったら、今まで時間をかけて捜査してきた「極秘データ」の行方が完全にリセットされてしまうのだ。  そんな追跡班の捜査員たちは「96」の存在を知らない。  そして今まさにショッピングモールの廊下を楽し気な表情をして歩いている、アザミの存在も。
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