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カラカラン……
古い大木をイメージさせる上品な色合いの扉を開けると、内側に付けられた錆色の鐘が耳に心地よく鳴った。
それほど広くはないが木のモチーフで統一された店内には、会話の邪魔にならない程度にアルトサックスをメインとしたジャズが流れ、思わず隠れ家にしたくなるような落ち着いた大人の雰囲気が醸し出されている。
カウンター内のバーテンダーが「お好きな席へどうぞ」と、新たな客を歓迎した。
店内に客の姿は三人。
カウンターで肩を寄せ合うカップルと、少し暗くなっている一番奥のソファ席に座る黒沼だ。
アザミはカップルから離れたカウンター席に、軽く腰掛けた。
客席の中では黒沼から一番離れている。
しかしスーツの上からでも体格がいいと分かる男の登場を、黒沼が見逃すはずがなかった。
全神経を集中させて警戒を始める。
もしかしたら、アイツは警察官か?
あの場所から俺を見張るつもりだろうか?
まぁ、見張られたところで俺はここで酒を楽しんで、後はホテルに戻って眠るだけだ。
俺がここにいる間、Rホテルの客室を密かに調べられても構わねぇ。
何一つ収穫なんてないだろうが。
あぁ、実に美味い酒だ。
だが、もうすぐ大きな金が入るようになれば、もっと高級で美味い酒を好きなだけ飲めるようになるだろうぜ。
警察を手玉にとっている優越感で、黒沼の口角は自然と上がっていた。
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