【06】ハニートラップ

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 そんな彼を薄暗く照らしていた照明の光が遮られた。  気付けば目の前に、さっきの男が立っている。  その手にはカウンターで受け取ったらしいウイスキーの水割りを持っていた。 「よぉ、隣いいかい?」  「俺は一人で飲みたいんだ。あっちへ行け」  黒沼は誰にも関わりたくないという態度を露骨に示し、当然のようにアザミを追い払おうとした。  邪険にされたことを気にも留めず、アザミがニタリと笑いかける。 「兄さん……もしかして、カタギじゃないよねぇ?」  自分自身が用心深い切れ者なだけに、普通ではありえない言動を堂々とぶつけてきたこの男に対して、黒沼は珍しく戸惑いを覚えた。  こんなことを正面から言ってくるなんて、イカレてるのか?  まさか俺が誰なのか知りながら、挑発しようとしているのか?  考えても分からないのならばと、逃げるように黒沼が席を立とうとしたので、 「なんだよぉ、つれねぇなぁ」    と、アザミがその腕をつかんでソファに引き戻す。  そしてさりげなく隣に座り黒沼の退路を断ちつつ、自分のグラスをテーブルに置いて小声で囁いた。 「兄さんが、俺の愛人(イロ)となんとなく似てたからさ。もしかしたら同業者かなって思ったんだ。それだけだよ」  ほのかなブランデーの香りが、黒沼の鼻をくすぐる。
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