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そんな彼を薄暗く照らしていた照明の光が遮られた。
気付けば目の前に、さっきの男が立っている。
その手にはカウンターで受け取ったらしいウイスキーの水割りを持っていた。
「よぉ、隣いいかい?」
「俺は一人で飲みたいんだ。あっちへ行け」
黒沼は誰にも関わりたくないという態度を露骨に示し、当然のようにアザミを追い払おうとした。
邪険にされたことを気にも留めず、アザミがニタリと笑いかける。
「兄さん……もしかして、カタギじゃないよねぇ?」
自分自身が用心深い切れ者なだけに、普通ではありえない言動を堂々とぶつけてきたこの男に対して、黒沼は珍しく戸惑いを覚えた。
こんなことを正面から言ってくるなんて、イカレてるのか?
まさか俺が誰なのか知りながら、挑発しようとしているのか?
考えても分からないのならばと、逃げるように黒沼が席を立とうとしたので、
「なんだよぉ、つれねぇなぁ」
と、アザミがその腕をつかんでソファに引き戻す。
そしてさりげなく隣に座り黒沼の退路を断ちつつ、自分のグラスをテーブルに置いて小声で囁いた。
「兄さんが、俺の愛人となんとなく似てたからさ。もしかしたら同業者かなって思ったんだ。それだけだよ」
ほのかなブランデーの香りが、黒沼の鼻をくすぐる。
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