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コイツ、自分の最悪な状況から逃げ出したいと思う前に、俺の身を心配してくれるとは……いじらしいじゃねぇか。
黒沼は胸が熱くなるのを感じ、目の前の男が愛しくさえ思えてきた。
「一度でいいから兄さんに抱いて欲しかった……でも俺、すぐにアイツの所へ戻らなきゃ、嫌なことたくさん……されちまうから……」
最後は消えてしまいそうな声で呟くと、うつむいたアザミの頬を涙が伝った。
その涙を見た黒沼は、周囲から切れ者と一目置かれながら、目の前の哀れな男に何もしてやれない自分に対して次第に歯がゆくなってきた。
どうせすぐ戻ったとしても、その最低野郎はメールで送りつけたような暴言を浴びせながらコイツを散々いたぶるのだろう。
だが、何をされても弱みを握られているため、逃げることが出来ないと言っていた。
その警察官が、飽きるまで……。
黒沼はアザミを強く抱き締めると、耳元で囁いた。
「俺はF市に引っ越したばかりなんだが、そこに『ノワール』って高級質店がある。その最低なイロと縁を切ることが出来たら、必ず訪ねて来い。いいな?」
その言葉を聞いたアザミは、さらに涙をあふれさせた。
「……俺みてぇな奴に優しくしてくれるのか?……たとえ気休めでも、すごく嬉しいや……今日、俺は兄さんと出会うために、ここに来たのかも知れない……」
涙で濡れたアザミの頬に、黒沼が優しく手を添えた。
「バカ野郎、気休めなんかじゃねぇ!またアンタに会いてぇと思ってるし、抱きてぇから言ったんだ!」
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