【08】簡単な任務のはずだった

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「現在、閉店中のゲームショップに忍び込んでほしい」  潜入……と言っても空き店舗か。  氷動は少し拍子抜けした。  自分が初仕事なので、簡単そうな任務を片岡が与えてくれたのだろうか。 「捜査員の正体がバレて騒ぎになった直後、ゲームショップの中から全員客が追い返されたと捜査員は言っている。そして慌ただしくシャッターが閉められ、5分もしないうちに今度は店員たちが全員、裏口から店を出て行ったとのことだ」 「たった5分ですか?『極秘データ』があったという証拠などを隠滅するには、短すぎる時間のようにも思えますが」  と、片岡の言葉にカギヤが驚く。 「とにかく逃げることを最優先したんだろう。それぞれの店員を追いかけて、職務質問と称し別々の場所で足止めして調べたが、屋多野組(やたのぐみ)や『極秘データ』と関連がありそうな持ち物は一切出なかった。もちろん黒沼からもな」  カギヤは今回潜入する目的を理解した。  「そんなに慌てて引き払っているくらいですから、まだ店内に何か残されているかも知れない。そういうことですね?」  片岡が(うなず)く。 「そうだ。だが、ガサ状(捜索差押令状)が発布される直前に、関係者が全員姿をくらましてしまって店内を調べられんのだ。現在そいつらの行方も追っているが」  きっと黒沼が指示を出したのだろう、と氷動は思った。 「店から何かを持ち出そうとする奴が現れるかも知れない。そこで捜査員が数名、連日ゲームショップに張り込んでいたのだ。だがそれを警戒してか、(いま)だに誰一人立ち寄るものはいない」
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