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「見てよ。これ」
小さく呼ぶ声が聞こえたのでレジカウンターに氷動が近づくと、カギヤがレジの鍵を容易く開けていた。
「中身そのまんまだよ。売上も持たないで逃げるなんて、本当に逃げることだけを最優先させたんだね。これなら逃げた時に裏口の鍵をかけ忘れてもおかしくはないか」
そう言ってカギヤはレジの鍵を元通りに施錠した。
今度は氷動が指をさして言った。
「あれを……」
暗闇の中に小さく赤いランプの点灯が見える。
ライトで照らすと、どうやら店員用の事務室のドアに付けられた鍵らしい。
営業中もなにかと店員たちが出入りするであろう事務室の出入り口に、鍵を取り付けるとは物々しい。
これは怪しい。
やはり後で取りにくるつもりで、まだ事務室内に「極秘データ」が、置き去りにされているのでは……。
氷動が考えを巡らせていたわずかな時間に、先ほど鍵を開けられなかったのが相当悔しかったのか、今度こそはと言わんばかりにカギヤが解錠を始めていた。
氷動が近づいた時には、ランプは緑色に変わっていた。
「さすがですね」
褒められたカギヤが困ったような笑顔を返す。
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