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「今日ここへ来てもらったのは他でもない」
地味な男こと、片岡警視長が口を開いた。
声も話し方も容姿に負けないくらい特徴がない。
しかし警視長とは、警察組織における階級の中でもかなり上の地位の人物である。
本来であれば呼び出された青年が直接関わったり、口をきける相手ではないはずなのだが。
「氷動巡査長。君には警視庁を退職して欲しい」
氷動はうろたえもせず、さらにその理由を聞くこともなく無表情のまま答えた。
「承知致しました」
「……やはり、私の目に狂いはなかったようだな」
氷動の言葉と態度に対してそう呟くと、片岡は初めて口元に笑みをみせた。
「突然の不本意な事態に直面しても微塵も動じるそぶりはなく、質問や反論をしたところで結果が変わらないことを察し、最も望まれていた答えを即座に導き出した。見事だ」
片岡がパイプ椅子から立ちあがる気配を察知し、ほぼ同時に氷動も立ちあがる。
「氷動。君に退職して欲しいと言ったのは、優秀すぎるがゆえに現状に埋もれさせるには惜しい人材だからだ。その能力を組織のため、いや、この国のために使って欲しい」
一呼吸置いてから片岡は声のトーンを下げた。
「ここから先の話はトップシークレットだ。聞いた後の拒否権はない。どうする?」
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