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「どうした遠藤、帰らないのか?」
「ええ、帰りません」
「それは、また、なんでだ?」
授業はすべて終わったのに遠藤雫は椅子から立ち上がろうとしない。
帰らないのか、と聞けば「帰ります」の答えを期待していた…。
「小テストで気になる問題でも?」
「テストは空欄がないよう頑張りましたよ」
そういってひらひらとテストのプリントを見せてきた。確かに空欄はどこにもない。
遠藤はいつも二列目の窓側に座って俺の授業を真面目に聞いている数少ない生徒。
その遠藤が帰りません、か。
もしや家庭内に問題があり帰宅を拒んでいるとか…。
おいおいそんな大事ならば巻き込まないでくれ、対処法など俺には分からん。
「いい具合に頭が空っぽでそろそろ言葉が集まってきます。ここで席を立ったら言葉に逃げられますから。だからあと10分ほどここにいます」
「…」
言葉が出なかった。それはバカみたいなことを言っていると呆れているからじゃない。
俺にも、俺にも似たような状況にしょっちゅうなるからだ。
音がキラキラと光って、今なら手を延ばせば曲ができるというという時が。
遠藤は音ではなく言葉、おそらく詞を書いているはず。
まさか俺と同じ体験をする奴にこんなところで出会うとは。
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