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プロローグ あいら
「あいらー!この前貸した本はまだー?」
「あ、読み終わったよ!面白かった!ありがとう。ちょっと待ってね」
鞄の中を探る。確か左側のポケットに入れたはずだ。ポケットに手を突っ込む。
「あ……」
中は空だった。
「どうしたの?」
胸の前で手を合わせる。
「ごめん!教室に忘れたっぽい!今すぐ取りに行くから!」
言い終わると同時に駆け出した。
「あ、ちょ、まってよー!」
階段を登って右に曲がるとすぐにある教室が私の教室だ。後ろのドアが開いていたから入ろうとすると、声が聞こえた。
「好きだ。付き合ってくれ」
「いいよ」
思わず足が止まる。
「嘘……」
この声は、この声は、この声は……。
ーー嘘 ーーどうして ーー私は ーーそう ーー好きな ーーこれは ーー可愛い ーーあいつ ーーあの
「じゃあ、いっしょに帰らないか?」
「うん」
かけだす。一心に。角を曲がってながい廊下をひたすら走って。シンとした廊下に音を立てるのもためらわずに走る。普段走ることのない私がが走ると息が苦しくなるけど構わず走る。奥の角を曲がるとドアの開いている教室があって入った。
「はっ、はっ、はっ、はっ……」
息が苦しくてドアに寄り掛かるけど苦しい理由はそれだけじゃない。それだけじゃ、ない。
ただの噂だと思っていたんだ。『翔太の好きな人はありさだ』と言う事は。いや、違う。本当はそうだとわかっていた。わかっていた、わかっていた、わかっていた……!本当は、本当は、本当は……!私の恋はかなわないって……!
「う、う、う、うわぁぁぁぁぁぁあん!」
ダムが、崩壊した。そのダムは、誰にも止められなかった。
「あいら!」
「優……?」
「あいらっ」
ふわっといい香りがする。抱きしめられた。私はそのまま泣き続けた。
やはりダムは、誰にも止められなかった。
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