散る

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先生が俺の名前を呼んだ 霜田の代わりに練習を仕切るように言われた もともと、練習を仕切るのは部長の役割 だから、当然の流れではあったけれど 通常、任されるタイミングは チームの方向性が固まる新人戦の後 俺は何の準備もしていなくて 心構えが整わなかった だからという訳じゃないけれど その日の練習は最悪だった 先生の指示をまともに伝えることが出来ず しどろもどろで、声も小さく 戸惑う部員に「すまん」と繰り返した 恥ずかしくて、情けなくて こんなにも自分が使えない奴だと思い知った 俺はその日の夜に夢を見た 俺はリレーをスタンドで見ていた すると、突如バトンを渡され 走れと言われてコースに立った だけど、何レーンで、何走者目で どれほどの距離があるのかもわからない とにかく、示された方へ闇雲に走り出す そんな夢だった 目覚めると俺は吐き気に襲われ トイレへ駆け込んだ いくら吐き出しても、恐怖は消えなかった 苦しくて、吐き出すものもなくなり 涙だけが止まらない たった一日でここまで追い込まれた 自分がこんなに弱い人間だとは思わなかった 母には悪いけど とても続けられるとは思えない チームの為に辞めるべきだと思った だけど、そう思いながらもひと月が経った 言い出す勇気がなくて 逃げ出すことばかり考えて とうとう週末の日曜に大会の初戦が始まる 自分が出るわけでもないのに怖くて 負けた時の責任が、自分へ向くことを恐れた 練習の仕切りが上手くいかず 改善したくても いつまでもその答えが見つからない 「何で俺が部長なんだよ」 一日に何回もその言葉を口にする 解消されない苛立ちと不安 もう、一人でいるのは耐えられなくて 穂乃果の優しさにすがった 強引に約束を取り付け 予定なんて考えずにデートを誘った
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