散る

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剛生(ごう)の部長について聞いたのは 冬休みが明けた2年生の3学期の始業式 体育館で校長の話を最前列で聞いていると 私は首筋に鋭く吹き付ける風を感じた 体育館は建て替えられたばかりで すきま風は存在しない 私が振り返って睨み付けると 夏子が不満そうに頬を膨らませた 驚かせて、声をあげさせたかったのだろう そうは行くもんですかと 私は勝ち誇った笑みを浮かべて向き直った その直後に、夏子から部長のことを聞いたのだ 当然、私は声をあげて驚いた 全校生徒の視線を浴びても 校長の咳払いが聞こえても 私はうれしさが勝って ちっとも恥ずかしくなんてなかった おめでたいことだと思っていた 私は剛生の部活が終わるのを 剛生の教室の剛生の席に座って 夏子と一緒に待つことにした 途中でプレゼントを買いに抜け出して 夏子と別れて 剛生の帰宅に合わせて下校して 隣の車両に乗り合わせ 最寄り駅で降りた剛生と 偶然を装って遭遇する プレゼントはミサンガ 私は腕に付けるものだと思っていたけど 剛生は足に付けると言う 試合中相手に引っかかる恐れがあるので 腕に付けることが禁止されていた 私は3Pの線がわからず 剛生に教えてもらったことがある その後に、レイアップの線を尋ねたら 剛生がお腹を抱えて笑っていた 私のバスケの知識なんてそんなもの だから、私は気づかなくて SNSで自慢した いいね、の数が0だった それに納得がいかなくて、悔しくて 誰かにこの喜びを共感して欲しくて 台所にいる母親に自慢した すると、母は料理の手を止めて 自分のスマホを手に取った 電話を掛けた相手は剛生のお母さん 私たちは小、中、高と同じで 両親ともに仲が良かった 母は剛生の話からすぐに脱線 無駄話が終わったのは1時間後 母が不思議そうに、不思議なことを言った 「部長のこと、剛生くんのお母さん聞いてないんだって」 部長になったら試合に出られる そうだと思い込んでいた だけど、剛生が何も言わないから 気づくことなく 傷つけた 「シュート決めたらご褒美あげるよ」 浮かれきった私の、的外れな恋愛ごっこ それに笑って付き合ってくれた剛生 それを思い返すと胸が今も痛む 私が剛生の置かれた境遇を知ったのは 夏子からの電話だった 「ごめん、本当にごめん」
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