散る

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剛生と一緒に学校に着いて 下駄箱で別れた 教室に入ると夏子が駆け寄って来た ワイドショーの記者みたいだった 「穂乃果! 歩いてたのって剛生くん?」 「うん」 「昨日のこと話したの?」 「出来なかった」 「意気地なし」 特ダネでも逃したのかってくらい 肩を落とす夏子が小突くような視線で 私を咎める 「だって、人いたんだもん」 「どうすんの?」 「今日謝るよ」 「今日って、どのタイミング?」 「部活終わったら」 「どこで?」 「そんなのわかんないよ」 「ちゃんと決めとかないと、あんた絶対言えないよ」 「言えるよそんなの」 夏子にはそう言ったけど 本当は言える自信がなかった もし、SNSでの自慢がバレていたら 戸惑うことなく謝れていた 大きなきっかけもなしに 謝るのは勇気が必要だった 万が一でも傷つけてしまったら そう思うと言葉が出ない このまま時が解決するのを待ちたかった その時、廊下から私の名前が呼ばれた 呼んだのは霜田くん バスケ部のキャプテンで 1年生からレギュラーの人 バスケ部には部長の他にも役職があり キャプテンと副キャプテンがある その二つは実力のある部員が選ばれる 霜田くんの要件は剛生のことだった 「あいつ最近どう?」 ワザと曖昧にした質問 それでも私は、何を聞きたいのか理解出来た 「ごめん、何も聞いてないんだ」 「そっか、でも何かあったら、俺に言って欲しいんだ。あいつ俺らに何にも言わないからさ」 「わかった。そうする」 「ありがとう」 霜田くんとの会話はそれだけ 無駄話一つなく教室へ帰っていった 好感の持てる人だった 剛生のことを本当に心配してるんだって思えた 私は霜田くんの姿を見ながら、剛生を思った 身長は剛生とほとんど同じ それなのに、どうして剛生には チャンスがないのだろうか? 小学校から、ずっと誰よりも 頑張って来たのに 何で剛生だけが辛い思いを? もし、剛生が辞めたい そう言ったらどうするべきか 霜田くんに伝えた方がいいのだろうか? 何も言わずに 剛生の意志を尊重するべきだろうか? それから何も解決することなく 無意味に時間だけが過ぎたある日の放課後 私は剛生の部活が終わるのを待っていた 今日は偶然を装うこともなく、校門で待っていた 一人で出てきた剛生は、私を見て驚いていた
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