散る

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俺は母親に泣かれて 辞めると言えなくなってから 続ける理由をずっと探していた いくらシュートを決めたって どんなに走れる距離が伸びたって 発揮する場が俺にはなくて 求められてもいない それでも必死に走る自分の姿は滑稽に思えた みんなに笑われているんじゃないかとさえ思った だけど、部長としてはやらない訳にはいかない 新チームの最初の大会 新人戦まであとひと月に迫っている この大会の結果は、毎年さほど良くない なぜなら、全国へ行っていた分 新チームへの切り替えが、他校よりも遅く チームの形を見出すことを目的とした大会だから 手探り状態で、勝利へのプレッシャーもない そのせいか練習の雰囲気に 締まりがないのが気になった 淡々とこなしているように感じる それは逆に集中しているからなのか? 霜田はどう感じているのだろうか? この静まり返った雰囲気がすでに定着し その中で声を出しているのは 個別にアドバイスを送る霜田だけ 俺も声を出して、活気を与えるべきなのか? だとすれば、何を言えばいいのだろうか? 俺の言葉に何かを変える力があるのだろうか? 浮かぶ疑問に対して、答えが見つからない 先生はパイプ椅子に座って見ているだけ 勝手に部長に指名しておいて アドバイスの一つもしてくれない なぜ俺を部長にしたのですか? 問いかけることも出来ない俺は コートの中で時間が過ぎていくのを待っていた 「靴紐解けてますよ」 後輩に指摘されても 何のことだかわからなかった 解けた紐を踏んづけて 転びそうになってようやく気が付いた 後輩に笑われたって思って顔を上げた だけど、後輩は俺を見ていなかった 霜田が床に倒れ込んでいた 手首を抑えて、苦痛に顔を歪めていた どうやら、プレー中の接触ではなく 足もとに転がったボールを踏んだようだ 集中力を欠いていたわけではなく 一人で練習をしきり 全選手に目を配らせ声を掛ける 上手くこなしているように思えていたけど 足もとが見えなくなるほど 許容範囲を超えていたようだ 手の付き方が悪かったのだろう 後の診断の結果、手首の亀裂骨折 全治は約6週間 復帰は大会が終わった後だった
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