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「……しょーこー?」
ねー、聞いてるー? って沈黙に向かって尋ねかけるともぞもぞ動く音が聞こえては来る。電話は切れてない。まさか寝落ちしたとかじゃないでしょうねーって思うけどそれはそれでもいい。だったらこのまま電話を切れば良いだけの話だ。
「あのね、実はさ」
ドキドキと、聞いている私の方が緊張するような甘い声色が飛び込んできて思わず息が止まった。
「……なに……?」
勿体ぶっているわけではないのだろうけど、実はと言いながら黙り込んでしまった祥子に思わず聞き促す。
何だろう、これ……何なんだろ……?
バクバクと喉から心臓が飛び出そうだ。まるでこれじゃ私が告白されようとしてるみたいじゃんッ……?! て明後日の方向に頭がパンクしそうになる。
「山本……亮太くん……」
「へ……ぁ……?」
「だから、山本亮太くんっ……」
きゃーっと恐らく電話の向こうで顔を真っ赤にして枕か何かに顔を埋めているのだろう。バタバタ暴れる祥子の様子が伝わって来る。
けれど私はそれどころじゃなかった。山本亮太。
祥子から教えられた名前が反復する。
「うそ……? 本気で?」
「……うん……」
ぎゅっと胸の奥が締め付けられるように苦しいのは祥子のドキドキが憑ったからだとは思えなかった。
バクバク、だくだく。
上手く息が吸えなくて、お母さんがばーんって部屋の扉を開けるまで「あうあう」言ってた。
「お、風、呂」
「あ……うん……?」
ドキドキを止められないまま「また明日ね」って電話を切って、ふわふわした気持ちで覗き込んだ洗面台に映る私の顔は、
「ぁ?……?」
真っ赤だった。
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