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「森元さん、良い人だよね」
いつの間にか横に立っていた夢芽がにやにやしながら私を見る。
それはまるで、オーナーと彼女を見守る私のにやにやと同じよう。
ドクンと心臓が飛び出しそうな程跳ね上がった。
違っ……否定しようとして、漸く気が付いた。
私……私、森元さんの事……。
そう思った途端に顔が火照る。
バカだ。
無芽の事鈍感なんて言ってたけれど、明日からはバカにできない。
自分でも気付かなかったこの気持ちを彼女は私より早く気付いていたのか。私は彼女以上に鈍感だったのかとショックに思った事よりも、動揺が上回る。
「ど……どうしよう、夢芽……私、私……森元さんの事……」
その声は震えていた。
自覚すると想いは一気に限界点を越える。
今日を楽しみにしていたのは、料理が楽しみだとずっとそう思い込んでいた。
それなのに、違う。
本当は、彼と二人での食事が楽しみなんだ。
仄明るい焔に照らされながら彼のテナーを聞く。
それが楽しみたったのだと、漸く気付いた途端に緊張で目が潤む。
「ああ、どうしよう……私……何て軽率なことしてしまったんだろう。彼を……彼を自分から誘うなんて……」
涙ぐみながらすがる私をにやにや顔の夢芽が勇気を分けてくれるようにあやす。
「大丈夫よ。心配無いって」
「そんな、他人事だからって……。私……彼に嫌われたらどうしよう……」
誰かに対してこんな風に思うのはいつ振りだろう。
「何とかなるって。私を信じて!ね?」
ウインクして見せる友に、私は不安を払拭しきれなかった。
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