プロローグ.もしもあの時

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プロローグ.もしもあの時

俺には1つ上の姉がいる。小さい頃は背丈も目鼻立ちも髪型もあまりにそっくりだったものだから、よく双子と間違われた。 とは言え性格は全く似ても似つかず、瓜二つには程遠かった。姉はよく笑い、よく泣き、そしておしゃべりで、すぐに誰とでも仲良くなれる人間だった。たとえそれがヒトでないものでも。 姉はよく、空中に話しかけていた。何も無い空間で楽しそうに笑う姉は、正直に言って気味が悪かった。その為、姉が一人遊びをしている間は、俺は遠くから見ることしかできなかった。 それ以外はいたって普通の姉弟(きょうだい)で、一緒に遊びへ出かける事も度々あった。その日も、姉に誘われて近所の公園へ出かけるところだった。 俺は新しいスニーカーを下ろしたため、玄関で靴紐と戦っており、なかなか外へ出れずにいた。姉はさっさと靴を履き、軽やかな足取りで家の門の外へと出て俺を待っている。 「いつきー!はやくー!」 扉の向こう側から急かす声がした。 「ちょっと待ってよ、こさき!上手く結べなくて!」 焦れば焦るほど靴紐は絡まり、ほどいてやり直すのにも時間がかかる。何度もやり直すうちに嫌気が差してしまい、夏なんだしサンダルへ変えてしまおうと思い直し、靴箱を開いた。 その時だった。姉の悲鳴に近い叫び声を聞いたのは。 「いつき!早くいえから出て!いそいでー!」 急にどうしたんだと問いかける間もなく、俺は一瞬で靴箱の下敷きになった。最後に見えたのは落ちてくる天井と、それに伴って迫り来る茶色の靴箱。 遠くで、姉だか自分だかの声が聞こえた気がしたが、目を閉じたら分からなくなった。 ありきたりな話だが、次に目を覚ましたのは市内の病院だった。 大人たちの話によると、局地的な地震のせいで俺の家『だけ』崩壊したという。外に近かった俺はなんとか救出されたが、両親は家と一緒に潰れてしまい、死んでしまったらしい。 「ねえ……。こさきは?こさきはどこ?あいつこんなこと聞いたら泣いちゃうよ……。」 俺は近くにいた看護師の服の裾を引っ張った。その俺の小さな手を、震える手で包みながら、看護師は重たそうに口を開いた。 「お姉ちゃんの小咲ちゃんはね、……どこかへ行ってしまったの。行方不明なのよ。」
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