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4話
食堂での暴行未遂事件の後、エトリは自宅療養を余儀なくされ、外へ出る事も許されず、アラルの処遇も分からないまま数日を無為に過ごしていた。
前日から続く春の嵐は、まるでエトリの心の中を表しているかのように吹き荒び、寝室の窓を濡らし続けている。
幸いな事に身体的に傷つくことはなかったエトリだったが、その心は深く抉(えぐ)られていた。目を瞑ると浮かんでくるのは、あの優しげでもの寂しげな笑顔ではなく、何の感情も浮かばないアラルの血に濡れた姿だった。
「アラルさん……」
あの夜、なぜ真っ先にアラルの名が浮かんだのか、考えれば考えるほどエトリは混乱した。アラルが剣を振るう姿を初めて身近で見たが、その太刀筋に迷いは一切なく、自分を襲った男の手を見事に切り裂いた姿は、まさに騎士の姿そのものであった。
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