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夕方必ず差し入れに来てくれるガートの話では、エトリを襲った人物は警備隊の1人で、遠い祖国を離れ長年西方警備の任務に就いている人物らしい。名前などは分からなかったが、食堂が1番忙しい時間帯に来る面々の中に、あの大柄な姿を見かけたことがあるという。エトリ自身、昼の書き入れ時に隊員一人一人の顔を全て確認できているかと言われればそうではなかった。あの男がいたかもしれない、それくらいの認識で確証はない。
「ともかく、エトリが無事で本当に良かった。騎士殿に一言声をかけておいて正解だったよ。騎士殿が食堂の外で待っていてくれなかったら、エトリの叫び声に誰も気づかなかっただろうしな……。あの夜1人にしちまって、本当にすまない……」
そう言ってガートはがっくりと項垂れてしまう。そんなガートを見て、エトリは首を振った。
「ガートさんの所為なんかじゃありません。私がもっと気をつけていれば良かったんです。何度も忠告してくれていたのに、真に受けず聞き流していた私が悪いんです」
それを聞いたガートは、頭に巻いていたターバンを荒々しく取りながら、顔を真っ赤にして口を開く。
「馬鹿言うんじゃねぇ! エトリは何にも悪くない! 悪いのはエトリを襲った奴だ! エトリにいくら恋慕してたって、あんな事する奴はアラルの旦那の剣の錆になって当然なんだ!」
そこまで捲し立ててから、ガートはハッと口を押さえた。今アラルの名を口にする事で、エトリの心に負担がかかってしまうとガートは考えていたからだ。
案の定、エトリは顔色を変えて、泣きそうな表情になる。
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