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6話
謹慎を言い渡されてから3日。その間激しく砦を打ち付けた春の嵐は、アラルの心も乱しながら通り過ぎていった。
砦の一角にある騎士専用宿舎の寝台のひとつに腰を下ろし、アラルは床の一点を見つめ項垂れていた。
自分がした事に後悔は全くなかったし、これから自分がどうすべきかも分かっていた。なのに一歩も動けない。ここを去るべきなのに、去りたくないと思ってしまうのは、脳裏に浮かぶスミレ色の瞳だった。
襲われたエトリを救うためだったとはいえ、隊員に対して剣を抜き放ってしまったアラルへの処罰はもちろん重いだろう。
15歳で入隊し、30年以上の時を騎士として生きてきた自分の過去を、アラルは初めて振り返った。
その30年で受けた苦しみや悲しみは、幸せよりも遥かに多く、アラルの心の平穏は未だない。そんな諦めに近い人生の中に突然現れたのは、エトリという無垢で純朴な女性だった。
まさか、自分の中にまだこんな感情が残っていたとは。
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