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「今日の日替わりは、『魚介のパスタ春野菜添え』ですか。では、それを頂きましょう」
開店と同時にやって来るのは、シルバーグレージュの癖毛を後ろで1つに結んだ長身の騎士だ。ほぼ毎日必ず開店と同時に来て、食堂が静かなうちに1人で食事を済ませるその壮年の騎士の名は、アラルという。
「アラルさん、こんにちは! いつもありがとうございます! すぐお持ちしますので、少々お待ちください」
エトリは代金を受け取りながら、アラルを見上げ笑顔を向ける。アラルの優しい微笑みが返され、胸が温まるのを感じた。
コバルトブルーの明るい青色の瞳はいつも優しく、包み込まれるようだ。
アラルの身の上は少し複雑だ。警備隊のメンバーが話しているのを小耳に挟んでしまったのだが、随分と前に妻を亡くし、以来王都にある自宅には戻らず、各地の視察をかって出ているという。子は無く、年齢も今年46歳になるということだった。
「今日のサンドイッチは卵がいいですね」
3つある長机のうち、窓際の手前から2番目のいつもの席に座り、頬杖をついてそう希望を口にするアラルは、その年齢に見合った落ち着きと、その年齢に決して見えない若々しさがあり、同時にどこか儚げな寂しさを感じさせる不思議な魅力に満ちていた。
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