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2話
西方警備隊基地内にある食堂で働くエトリは、女っ気のない基地の中にあって一輪のスミレのような存在だ。
歳を重ね、色々な経験をして、様々な女性を見てきたアラルでさえ、初めて会った時、エトリの控えめな美しさに眼を見張った。
淡いプラチナブロンドは常に美しく編み込まれ、ひとまとめにアップされている。細い首元に産毛がかかっているのを見てドキリとした事もあった。瞳はまさにスミレ色で、濁りなく透き通っていたし、厚めの唇は何も塗ってはいないだろうはずなのに艶やかで、桃色だった。
基地の隊員は勿論、国から派遣されていた前任の騎士でさえ、西方警備隊の食堂に咲く一輪の花の噂話をしていたから、アラルはどんな女性が食堂で働いているのか興味を持っていた。
実際、西方警備隊の視察の任務に就き、彼女と初めて言葉を交わしてすぐ、彼女が何故こんなにも噂になっているのか、理解した。
彼女は取り立てて絶世の美女という訳ではなかった。化粧っ気もないし、年齢が若いわけでもなく、これといって秀でた美しさがある訳ではない。しかし、彼女の心の美しさやその慈愛に満ちた人柄は、一言話しただけですぐわかるのだった。
彼女は家族を遠くに置いてきた男たちにとって、母であり、妻であり、娘であり、安らぎであったのだ。
そしてそれは、若い盛りを過ぎ、遥か昔に安らぎを失ったアラルも同様だった。
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