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詰所へと向かう途中、食堂のある通りからエトリが小袋を抱えて小走りでやって来た。アラルは声を掛けようと一歩を踏み出したが、それより先に彼女の目の前に現れたのは、赤髪の青年だった。
アラルはなぜか、近くの柱の影に身を隠した。自分でもよく分からなかったが、2人の会話を聞いてはいけないような気がしたのだ。
ベールが朗らかな笑顔でエトリを見下ろし、エトリも春の日が差し込むような柔らかい笑顔でベールに応えているように見える。
似合いの2人だ。若いベールの想いは真っ直ぐにエトリへと向かっている。それは、間違いなく正しい強い想いだった。誰もが応援し、祝福すべき想いであり、アラルもこの2人が幸せになる未来を後押ししてやるべきだった。
そう。そうすべきなのだ。
だが、アラルの中に生まれた抑えがたい気持ちは日に日に大きくなる。
アラルは誰も幸せになるはずのない、自分の抗いがたい強い感情を必死に押さえつけ、利き手を柱に叩きつけた。
「……くそ…」
アラルは晴れ渡る蒼天を見上げ、苦しげに呼吸を乱した。
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