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牧草地の真ん中に伸びた細い路は、慣れ親しんだ路とはいえ今はまるで、全く知らない土地に迷い込んだかのような拒絶感が漂よわせている。
しばらくは一本道で、途中分岐しているところがあるのだけど、
その場所は事故に遭った地点と自宅までの丁度半分辺りにあると思われる。
ショックのせいで時間感覚がない私には、
どれほど歩いているのかよくわからなくなっているため
距離にしろ時間にしろ、全然予測できなくなっていた。
とはいえ、かなりゆっくりなペースであっても随分歩いて来たはずだから、
そろそろ到着する筈と思っても、まだ見えてこないことが歯がゆかった。
焦りと苛立ちと不安がないまぜになって、気分がどんどん沈んでいく。
重い体を引き摺りながら、ほんのわずかな一歩を繰り返す行為は
まるで針の山を歩いているようだと感じられた。
失った靴の片方を思い浮かべた。
燃え盛る業火の谷底へ転げ落ちて行った私の左足の靴。
痛みと暗闇への恐怖と、生きて帰れないかもしれないという絶望が背後に迫っている。
急がなければ、すぐそこまで押し寄せている闇に捕まった途端、
死神の長い釜によって首を刈り取られる。
そんな不吉なイメージが脳裏をよぎり、悲鳴を押し殺して舌打ちを繰り返した。
こんなところで行き倒れても、すぐには誰にも発見してもらえない・・・。
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