長い夜が始まる

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一歩前に足を出そうとすると、フワフワと雲の上に立っているかのような不思議な感覚になっていることに気付いた。 さっきまではあんなに体が重たかったのに、今度は軽すぎて変な感じがしている。 また一歩前に進んでみると、さっきの歩幅とはくらべものにならないほど勢い良く足が上がって驚いた。 なにがどうなっているのかわからないが、このうちに家に帰れたら良いと思った途端、もう体が勝手に走り出していた。 フラフラしているが、走れている。 痛みや吐き気はもう気にならない。 感覚が麻痺したようだ、と思った。 そして、中継地点である分岐点にたどり着くことが出来て、私は思わず笑いが込み上げた。 あと半分。 防風林を抜ければもう間もなく家の明りが見える場所に出るはずだ。 そこからは夢中になってひたすら走った。 だから、自分でも気づかないうちに呆気なく家の近くまでやって来てしまった。 意識が飛んでもおかしくない重症なのかもしれない、と自分を納得させると、私はやっと暗闇の中で輝くランプの明りを確認して安堵の気持ちになった。 家を囲んでいる木製の柱のひとつずつには、お父さんの手製のランプがぶら下がっている。 いくつもあるランプだけど、最近は、お母さんが死んでからは家に最も近い柱のランプだけを灯していた。 私はその下を通り過ぎて、玄関のドアにたどり着くやいなやドアノブに手をかけた。 でも、力がうまく入らないのでドアノブを掴んでもすぐにするりと滑ってしまう。 血だ。 血と泥が邪魔をしているのだ。
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