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指先から熱くて赤い血が
したたり落ちていくのを感じていた。
辺りはすっかり暗く、
目を凝らさなければ家路の慣れ親しんだ風景さえもよく見えない。
街灯のない暗い路地の両脇は
果てしなく続く広大な牧草地だ。
土に水分が含まれているのか、
むっとするほど黒カビと泥の匂いが鼻を突いている。
靴を失った片方の足が湿り気の強い土と
その上に転がる石ころを踏むたびに痛み、
惨めな気分に追い打ちをかけている。
そろそろ見えてくるはずの家の明りを探しながら、
暗い世界を孤独な旅人気分で歩いた。
今は進むしかない。
私はいつだって自分の力で何とかやってきたのだ。
今回も、なんとかなるだろう。
そう自分に言い聞かせていた。
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