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見知らぬ私のことを心配してくれているのか、クゥンと悲しそうな声を出している。
「おまえ、どこの子?朝の散歩なの?」
私はか細い声で犬に話しかけてみた。
犬はさっと頭を上げて、遠くを眺めるように空に向かって遠吠えを始めた。
赤い首輪に金色のタグが見えたが、目が霞んでしまって文字が読めない。
飼い犬であることはわかった。
それから、ほどなくして自転車で誰かが近づいてくる気配がした。
自転車を乗り捨てたのか、砂利を踏みながら急ぎ足でその人はやってきた。
「なんてことだ!」
とても驚いた様子で、私と目が合った。
「これはひどい!」と、見覚えのあるその人の良さそうなおじさんは駆け寄ってきた。
「君、いつからここに?自転車で転んだのかい?」と聞かれたが、私は急速に眠くなり、目を閉じてしまった。
「アリー。起きて」
柔らかくて優しいお母さんの声がした。
私は目を開けた。
見えるのはただ空だけだった。
懐かしい色の雲がたなびいている。
唇が渇いて、言葉が出せない。
わけがわからない。
私を呼ぶ声は、もうどこにも居ない。
寂しくて涙が溢れ出てきた。
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