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暗過ぎる。何も見えない。
さっきから霧雨が降っているのか。
肌や髪がしっとりと濡れ、首筋に張り付いているのは汗のせいかもしれなかった。
顔に着いたであろう泥を、指でこそぎ落としてみるが、ただの気休め程度にしかならないことを私は知っている。
小さい頃に、お父さんの畑でよくどろんこになって遊んだものだった。
3歳年下の弟と私は、お母さんがどんなに嫌そうな顔をしても、どろんこ遊びにやみつきになって日が暮れるまではしゃいだ。
あの頃は良かった。
心からそう思い、その苦いものを唾と共に吐き出してみたけど、
泥の味は唇にこびりついて離れようとはしてくれなくて、心が折れそうになる。
自分を取り巻く全てのものが不快な存在にしか感じられない。
苛立ちがこみ上げ、泣き出すのをずっと我慢している自分に気付いた。
鼻の奥がツンとして、泣きたい衝動に負けそうになる。
だけど今、この怪我の状態からして立ち止まって泣いてる余裕なんてない、と自分に喝を入れた。あとでたっぷり泣いて良いから、今は歩け!立ち止まるな!
……これほどの惨めな気分というのは生まれて初めてだ。
自分を嘲笑っても、嘆いても、誰も助けに来ないのなら
自力で乗り越えるしか、ない。
暗闇で荒々しい息遣いが耳元でこだましているようで不気味だった。
これは誰の呼吸?
私しかいないじゃないか。
そう。ここには自分しかいないのに。
私はずっと違和感と苛立ちと混乱寸前の精神状態に
恐怖を感じずにはいられなかった。
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