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深呼吸をしろ。
目を閉じて、落ち着け。
ここはうちの庭。
うちまでほんの数百メートルの勝手知ったる庭じゃないの。
大丈夫。
こんなところで諦めなければ、ちゃんと家に着いて泥だらけの服を着替えられるわ。
そう言い聞かせながら、私はゆっくりと立ち上がって闇の中で目を開けた。
進むべき場所がどっちか一瞬わからなくなったが、今来た方向に左指を指してからその反対側に指を差し向け、正しい方向に向かっていると信じることに決めた。
すると、背後の方角から犬の遠吠えのような声が聞こえてきて、たちまち私の心を弱らせ、嘲笑っているかのように不気味に響き渡っている。
歩き出したばかりの私はつい立ち止まって振り返り、じっと闇に目を凝らした。
でも、結局どんなに頑張っても見えるのは真っ暗過ぎてなにも見えないという現実だった。
今夜は月がない夜だった。
珍しいぐらい漆黒の闇夜が一面を覆い隠している。
今更ながら、私は悪寒を覚えた。
なぜ、こんな日に私は懐中電灯も持たずに家を飛び出したのか。
無謀にも程がある。
我ながら呆れ返ってしまう。
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