長い夜が始まる

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だからお父さんにいつも嫌味を言われて馬鹿にされてしまうのだ。 『とにかく前だけ見てろ。後ろを振り向くな』 いつだったか、お父さんがそんな言葉をかけてきた場面が脳裏に流れた。 あの時は、ただただお父さんの熱っぽいアドバイスが鬱陶しかった。 「私だって、自分なりにやっているのよ」 そう、心の中で何度も叫んでいたものだったが、今は違う。 今は、あの時とは全く違う感覚で、 お父さんの言葉が心に刺さってくるような気がした。 いつも中途半端な私を いつでも正してくれようと必死だったに違いない父親の心を 今、漸く感じている。 死と背中合わせになってやっと届くなんて……。 『上手くできなくても、最後までやり遂げなさい』 お父さんの声が、こだまのように聞こえてくる。 もちろん、お父さんは今ここにはいない。 今頃、車を運転して、遠くに住んでいる病床の親友に 収穫したばかりの野菜を自らの手で届けに出掛けたのだから。 毎年、一緒に出掛けていたのに。 今年もあんな喧嘩なんかしなければ、 今頃は一緒にどこかのドライブインで温かい珈琲を飲んでいたはずだったのに。 いつの間にやら、私の頬伝いに滴り落ちた涙が顎の下に溜まっていた。 私をそれを服の袖で拭った。
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