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持ち上げた腕が傷くて、私は顔を歪めた。
なにかが刺さったままの二の腕から暖かい血が流れているのだ。
これを引き抜いたら、もしかすると血が止まらなかったら・・・
そう考えて、私は刺さったまま家に帰ろうと決意して歩いてきたのだ。
フラフラになっているのは、きっと事故のショックのせいだ。
それに、片一方の靴を無くして裸足で歩く羽目になったせいもある。
靴がないと、こんな悪路は歩けない。
自転車は崖の下に落ちて行った。
おそらく靴も一緒に落ちたのだろう。
あの崖の細道を自転車なんかで行こうとした自分が信じられない。
あの道はもう何年も行ってなかった。
まさか、木の枝が目の高さに伸びているとはつゆほどにも思っていなかった。
薄暗い獣路のような路地を、無謀にも速度を緩めずに突っ込んでしまった。
そして、枝が顔に当たり私はバランスを崩して崖に向かって倒れたのだ。
投げ出されたとき、何かが腕に刺さった。
固くて尖ったそれは、私の二の腕に深く突き刺さっていた。
ドクン、ドクンと力強く打つ脈を傷口に感じている。
私はまだ生きている。
そう実感できることが、唯一の希望だと思えた。
痛みや恐怖は、生きているという実感を私に突き付けているようだった。
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