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「うわっ」
バシアは飛び起きた。
「最悪だ……」
下着が濡れている。
ひどい罪悪感に襲われて、バシアは顔を覆った。
どうしてこんな夢を見る。どういうポルノの影響だ。
エロティックな写真や動画を見たことぐらいはある。女相手も男相手も。男の欲望を満たす下劣さの点では、対象の性別はどちらでも変わらない。道徳的にやってはならない行為をした場合、商業的なお約束として、最後に罰される展開も。
だが、実際にやってみたいと望んだことはない。自分に歪んだ嗜好はない。だいたい、どうして弟の恋人相手に、こんなことをしなければならないのだ。
実をいうと短い夢なら、そう悪夢でないものも見ている。向こうから誘われるのだ。「バシアさんのこと考えて慰めてました」とか、「僕の初めてをバシアさんに」とか、とんでもないことを囁かれる。何にしても気持ちが悪い。そんなつもりは全くないのに、もし無意識が欲しているのだとしたら、なおさら自分がゆるせない――。
* * *
「バシアさん、います?」
平日の午前中にノックを受けて、バシアはおそるおそる顔を出した。
「どうしました、アンドー?」
例によって安道は、上下ともワークマンの作業服姿である。バシアの顔色をみて、一瞬眉を寄せたが、すぐに真顔になって、
「マリク、いないみたいなんですけど、仕事ですか?」
「ああ、あなたに言っていかなかったんですか。昨日の夜から、西の方へ行っています。明日の夜には戻ってくると思いますが」
安道は首をかしげて、
「バシアさん、ついていかなかったんですね」
「マリクの仕事をすべてフォローしているわけではないんです。私にも休日が必要ですし」
「そうですね。ということは、つまり今日は、バシアさんは非番ってこと?」
「非番という言葉が適切かわかりませんが……ああ、思い出しました、あなたの会社は創立記念日ですね?」
「よくご存じで。例年は、なんかイベントっぽいものがあるんですが、今年は方針が変わって、まるまる休みになったんで」
「それでデートのお誘いに?」
「季節もいいし、ふっとそんな気になっただけなんですけど、んー」
安道はバシアの顔をじっと見つめて、
「バシアさん、お休みなんだったら、よかったら、僕と一緒に出かけませんか」
「え、私とですか」
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