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「たまにはいいじゃないですか。どこか行きたいところ、あります? 案内して欲しいところとか、こういうご飯が食べたいとか……バシアさん、近所とか知り尽くしてそうだけど。あ、僕とじゃ嫌ですか」
「嫌、というわけでは」
こうして目の前にしてみると、どうしてあんな淫夢を見るのか、いっそうわからない。昼間の彼にはなんの色気も感じられない。バシアは首をかしげて、
「マリクを誘って、どこへ行くつもりだったんです」
「バシアさんとだったら、行く先を変えます」
「どこです」
「ちょっとバスで遠出になりますけど、かまいませんか」
「現金も交通系のICカードも所持しています、そのあたりはお気になさらず」
「じゃ、行きましょう。あ、バシアさんのその服、汚れても大丈夫ですか?」
「どこへ連れて行く気なんです」
「あててみてください。じゃ、また、十分後ぐらいに迎えに来ますね。特に支度はいらないところですけど」
安道はいったん引っ込んだ。そして予告通り、十分後にもう一度、バシアの部屋のドアを叩いた。
「あ、そんな格好もするんですね」
バシアも安道にあわせて、抗菌仕様の作業着に着替えていた。汚れてもいい服ならいくらでも持ってはいるが、どこに行くのかわからないのでは、あわせるしかない。
「じゃあ、行きましょう」
安道に連れられて、バシアはバス停まで歩いてゆく。
「夢見が丘公園?」
バスの行き先の中で、汚れてもいい格好をしなければならないのは、少し離れたところにある総合公園だけだろう。体育館や動物園、野外ホールやレストランもあるので、家族連れに人気がある。
「そうです。期間限定で、平日は大人もラクダに乗れるっていうので、行ってみようかなって」
「なぜラクダ」
「馬より面白いと思いませんか。馬って結構、ガクガク揺れるし。ラクダはあんまり乗る機会もないし……あ、バシアさんは乗り慣れすぎてて、いやですか」
「いや、そういう仕事はしていませんでしたから」
「基本、二人乗りらしいので、お誘いしました。僕は友達が少ないし、バシアさんならそんな物好きもつきあってくれるかと思って。それとも、予定を変えてショッピングとかにします?」
「いや、かまいませんよ、おつきあいします」
「どうも」
安道はニッコリした。
バスがやってきたので、二人は乗り込んだ。
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