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『ハァハ…ァ…ッ!』
真っ暗な暗闇でひたすら走っていた。まるで何かから逃げるように。けれど、それが何なのか… 自分が何から逃げているのか。自分が…
――『誰なのか。』
それさえも思い出せない中、必死に走り続けた。
暗い暗い暗闇に捕まる寸前で、目の前が瞬く間に明るくなった。
バサッ
「ハ…ァ…ッ!」
『!良かった。目が覚めたようですね…』
荒くなった呼吸に驚きつつも、胸を押さえて必死に呼吸を整える。
『落ち着いて。…此処にあなたを傷付ける人間はいません。だから安心しなさい』
目の前の和服の着物を着た銀縁の眼鏡をかけた20代の男に怪訝な目を向ける。そして、下に落ちた掛け布団…
どうやら、先ほどの音は自分が起きた拍子にこの掛け布団が落ちた音のようだ。
「ぃた…っ!」
ズキリ、と痛む頭を押さえると布地らしき手触りがあった。
はらりと落ちるそれは…
白い包帯で。
『あぁダメですよ。手当てしたばかりなんです。せっかく巻いた包帯が取れてしまいますよ』
そう言って心配そうに眉尻を下げるこの男こそ、南条家の現当主であり、
この先、自分が仕える主人となる人間だった。
そんな彼との出会いはいろんな意味で退屈はしなかった――‥ 。
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