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「貴方は… だ、れですか?俺は… 俺は… 一体…」
自分が一体何者なのか。自分の名前が思い出せなくて… 焦燥して震える声に、
目の前の男は隣の燕尾服を着た執事らしき男と顔を見合わせ、言った。
「――‥ 南くん。…忘れてしまったんですか、私との日々を…」
眉根を八の字にして微かに震える睫毛。
「…すみません。俺、自分の名前も思い出せなくて」
震える手を握り締めると、その人はその手をそっと握り締め…
「私とあなたは…」
そこで一端言葉を切った。
「恋人だったんです」
ふぅ、と その人は小さく溜め息ついた。
「え…っ?」
一瞬、信じられなくて。…確かに、彼は同性の俺から見ても、中性的で綺麗な人だけども… 自分も相手も男だ。それも、相手は執事付き。
このイマイチ現状を把握出来てない中、さらなるカミングアウトに驚きに目を見開いていると、
『……旦那様』
隣に立つ執事の男が、何故だろうか… 呆れた目をしている
『旦那様、いくら気に入ったからと彼が何も覚えていないことをいい事に嘘を言うものではありませんよ』
きょとん。。
「え… 嘘?」
目をパチパチ。視線を『旦那様』と呼ばれた目の前の中性的な顔の男に向けると、
「くすくすくす…。
すみません。あなたがあまりにも可愛いらしくて… つい、そんな嘘をついてしまいました」
「は、はぁ…。」
くすくすくす笑う彼は悪びれもないけれど、なぜか怒る気にもなれなくて、
『……こういうときは怒っていいんですよ』
目の前の主人の男に対し臆することもなく、俺にそんな助言をする執事の男に困惑した表情を向けた。
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