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「セツ、主人の私に失礼じゃありませんか」
執事をセツと呼んだその人は不満げに口を尖らせた。
「……失礼云々以前の問題だと思いますが」
しれっと返すセツと呼ばれた執事は主人であるその人に物怖じしないその態度に咎める様子もないこの主人の人柄が垣間見えたような気がした。
「ふぅ… 。さて、躾のなってない犬は後で躾けるとして」
ん?あれ…?
なんでかな?今、もの凄く目の前の男の、その中性的な表情と合わない言葉が聞こえた気がしたんだけど。
「………」
いや、敢えてここはスルーするべきなのかもしれない。きっとこの人達はSとかMとかそういうプレイを好む人達なのかもしれない。助けてもらっておいて不躾な目を向けるのは失礼だと思い…
「…………」
困ったように少し笑みを浮かべて、生温かい眼差しを向けた。
しかし、それにいち早く気づいたのはセツと呼ばれた執事で…
「どうするんですか。もの凄く、彼、勘違いしてますよ。見てください!あの生温かい目!!思いっきり誤解されてるじゃないですか!」
「……良かったではありませんかセツ。これでもう性癖を隠す必要が無くなって。オープンですよ!オープン!」
ニッコリ、さわやかな笑みを見せる。
「え、っと…」
二人のやり取りに困惑していると、『旦那様』と呼ばれた中性的な容姿の男の人が柔和な表情を浮かべた。
「ああ、すみません。不安がらせてしまって…。そういえば自己紹介がまだでしたね」
「私は南条家の現当主、南条 雪斗。隣の彼は執事のセツ」
「セツとお呼びください。以後お見知り置きを…」
執事が会釈するのを一瞥してから、雪斗と名乗る当主様は再び視線をこちらに向けた。
「えっと、旦那様…?」
どう呼べばいいのかわからなくて、戸惑いながらもそう口にすると、彼は不満げに唇を尖らせる。
「つれないですね」
「え?」
困ったように助けを求めて隣に立つセツさんを見ると、
「ほら、旦那様。目を覚ましたばかりの彼をあまり困らせてはいけませんよ」
雪斗さんを諌めた。
「プフッ、くすくすくす…」
肩を微かに揺らし、指先を折り曲げて口元を隠す彼は笑っていて、
「…………」
戸惑いの目を向けていたら、ようやくこちらに向いてくれた。
「すみません…。あまりにも、貴方の反応が可愛らしくて…」
つい、とまた小さく笑うと俺の頭に手を伸ばす
ぽんぽん叩くその心地よさに思わず目を細めてしまう。
「………っ」
のに、なぜか不意に手が止まって首を傾げて見上げると、口元を指先で隠す旦那様が少し赤らめた顔で俺から目を逸らしていた。
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