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本当に・・・そんなことができるのなら僕は・・・。
「・・・けれど、僕・・・お金・・・持ってないんです」
僕はそう言って思わず俯いた。
僕の足元には大きな淀んだ水溜まりができていた。
それはまるで底なし沼のようで怖かった。
家を出てどれくらいの時間が過ぎ去ったのだろう?
もう十分に身体は冷えていて寒い・・・。
家を出る前から降り続いていた雨はどんどんと勢いを増し、辺り一帯は濃い夕闇に呑まれようとしていた。
雨は好き・・・。
僕が唯一、外出を許される天気だから・・・。
紗江子さんは僕を学校に行かせてくれない。
もしかすると僕が産まれたことを証明する手続きも行われていないのかも知れない・・・。
それはつまり、紗江子さん以外、誰も僕の存在を知らないと言うこと・・・。
嗚呼・・・僕はなんて孤独で可哀想な子供なんだろう・・・。
「お金? そんなモノに僕は興味はないよ」
その男性はきっぱりとそう言い切った。
僕はその男性のその言葉に首を傾げ、その男性をじっと見つめ見た。
「もし、本当に今の現状から逃れたいと思うのなら君の時間を僕に頂戴」
「僕の・・・時間?」
僕の質問に男性は小さく頷いた。
「そう。時間」
その男性のその答えに僕の頭はますますこんがらがった。
時間なんてどうやって取り引きするのだろう?
「僕の元で働き、僕の命令に従う。それで僕は君の願いを叶えてあげる。そう言う取り引きは・・・どう?」
ザアザアと降りしきる雨に僕の返事は掻き消されたけれど、濃い夕闇を振り払うかのように雨雲から射し込んだ眩しい夕陽が僕の答えを代わりに言ってくれているような気がした。
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