車椅子

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 さっき一瞬すれ違っただけだが、車椅子を押す側の人は、間違いなくさっき車椅子置き場で見かけた人だった。でも乗っているのが別人なのだ。  騒ぎで具合が悪くなったのか、程なく看護士達に担架で運ばれて行ったのは、どちらかていうと大柄な男性で、あのおじいさんとは似ても似つかなかった。  介護士さんがさっきのおじいさんをどこかに送り届けた後、すぐに別の人の付き添いに回ったのだろうか。  そんなことを考えながら、置き去りにされた車椅子をふと見た瞬間、俺の全身は恐怖で凍りついた。  置き去られた車椅子に、あのおじいさんが乗っていたのだ。  放置された車椅子を、手の空いた病院の人が運んでいく。その際おじいさんに声をかけないし、押し方のぞんざいさから考えても、あのおじいさんは俺以外には見えていないのだろう。  多分、車椅子置き場でも、俺にはおじいさんが見えていたけれど、人には無人に見えて、未使用として貸し出されたんだろうな。  もし俺におじいさんが見えなかったら、階段で落下しかけていたのは俺と友達だったのかもしれない。  これまで心霊体験なんてしたことはないし、お化けとかを見たいと思ったこともないけど、今日、あのおじいさんを目撃できて本当によかった。 車椅子…完
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