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そんなことを考えながら、ふと時計に目を向けた智秋の耳に、電話のコール音が聞こえてきた。
「あれ? 電話?」
大地が箸を置いて振り返る。
そんなに何度も帰るコールをするはずはないので、深月からとは考え難い。では、智秋か大地の友人だろうか。いや、大地はともかく智秋の友人であれば、家の固定電話ではなく、直接携帯にかけてくるはずだ。
そんな疑問を頭に浮かべたまま智秋は受話器を持ちあげた。
「はい、天野ですが……え? あ、はい。そうですが……」
電話にでた智秋の口調が、相手が誰かわかった時点で丁寧になったようなので、相手は深月でも由宇でもなく、まして大地の友達ということでもなさそうだということだけは、そばで聞いている大地にもわかった。
では誰からの電話だろうか。
大地がこっそり聞き耳を立てていると、智秋が電話口の相手と二言三言言葉を交わした時点で真っ青になって絶句した。
「……本当ですか? それ。はい、俺は智秋。深月の弟です。それに水澤由宇の緊急連絡先もここで間違いありません。じゃあ今二人の容態は……はい……ええ…それで?」
尋常でない智秋の表情を見て、大地が心配そうに駆け寄ってくる。
「どうしたの? ちい兄」
「…………」
「ちい兄?」
「はい……はい……わかりました」
大地の追及を手で制しながら、智秋はどこかの住所をメモに走り書きしている。大地が覗きこむと、そこに書かれていたのは近くの大学病院の名前だった。
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