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 けど、なんだというのだろう。  次の言葉を発することを躊躇した智秋の耳に、受話器の向こうから深月らしき声が聞こえてきた。かすかに漏れ聞こえる会話からして、どうやら由宇に電話を替われと言っているみたいだ。 「智秋か? 今聞いたとおり……」 「おい、深月。もしかしてお前、最初からそれ目的で由宇を引っ張りだしたのか?」 「……なんだ、それは」  電話を替わったとたんにおもわず出てしまった智秋の憎まれ口に、深月が顔をしかめた。  今日は深月が所属している剣道部の対外試合があり、深月達はこれから隣町へ行く予定になっている。 「人聞きの悪いことを言うな。別に俺は嘘をついて呼び出したわけじゃない。せっかくの休日なんだから、由宇にも羽を伸ばさせてやろうと思っただけだ。お前だってこの間そんなこと言ってなかったか?」 「そりゃ言ったけど、だからってなんでそれが深月の試合観戦になるんだよ。今日は俺の勉強を見てくれる約束してた日だろう」 「A判定でほぼ合格確実と言われてるくせに、今更お前が勉強をみてもらわなければならない理由のほうが俺には見当がつかん」 「んなのお前に関係ないだろうが」 「関係なくはない。だいたい由宇はお前の所有物じゃないんだぞ」 「こらこら、電話口で兄弟喧嘩すんなよ、お前等」  二人の言い争いを遮るように、電話口に別の声が割って入ってきた。  誰だったっけ。聞き覚えのある声に智秋が自身の記憶をたどる。 「にしてもA判定って、マジで天才児って噂は嘘じゃねえんだな、お前さんの弟。うちの高校の偏差値、結構高いんだぞ」 「だから色々面倒くさいんだよ」 「優秀な弟を持つと大変だぁ」  深月が苦笑している隣で、笑い声が響く。
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