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「誰にでもガサツに振る舞えるお前と違って由宇は繊細なんだ。怯えさせるな。だいたいお前は由宇とは初対面だろう。どうやったらそこまで馴れ馴れしく出来るんだ」 「はーい。しっつれいしましたー」  降参の意味を込め、おどけた調子で両手をあげた鷹取を見て、由宇の表情がふわりと和らいだ。そして鷹取もそんな由宇に好印象を持ったのだろう笑みを浮かべると、改めて握手を求めて片手を差し出してきた。 「なんか今更感が半端ないけど、じゃあ、とりあえずはじめましての挨拶でもしとこうか。俺は鷹取謙司(たかとりけんじ)」 「僕は水澤由宇(みずさわゆう)。由宇って呼んでくれればいいから」 「了解。なら俺のことはタカでいいよ」 「タカって、あ、もしかして君がたかみつコンビの片割れ?」 「そういうこと」  にこりと笑って鷹取が頭を下げた。由宇もにこりと微笑みを返す。  たかみつコンビ。  それはこの学校内及び近隣の、主に剣道部の間で使われている、鷹取と深月の通り名だ。  二人がそう呼ばれるようになったきっかけは、彼らが高校に入ってすぐの大会で一年生ながら団体戦の先鋒・次鋒をそれぞれ務め、その時の鮮やかな勝利が話題になったから。 「君のことは、深月からよく話を聞いてるよ」 「悪い噂じゃないだろうな」 「まさか。剣道が超強いって、褒めてたよ」 「ほんとかぁ?」  鷹取が深月に疑り深そうな目を向けると、深月は小さく肩をすくめた。 「俺の次くらいには強いと言っておいたんだが?」
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